時間学研究所の紹介(~2015年度)

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山口大学・時間学研究所は、広中平祐学長時代の2000年4月に設立されました。設立の意図は、時間という観点から研究者間の交流を図り、新たな学際領域を創造するとともに、その成果の社会的な還元を行なうことにあります。特に本研究所の場合、文理融合による研究成果を目指している点に特色があります。

研究所の組織は現在、所長、教授2名、准教授1名、講師1名、助教(特命)2名、客員教授9名の体制となっています。研究グループは4つに分かれ、それぞれ「社会的時間と人間的時間の調和の研究」、「生物に刻まれる時間と環境変遷に関する研究」、「多文化圏における時間表象の研究」、「時間に関する個別融合分野の研究」をテーマに研究をしています。参加研究者の学問分野は、生物学・医学・工学・物理学・心理学・哲学・社会学・経済学・文学・文化人類学など多岐にわたり、すべての学部との関わりがあります。また、複数の学部において、研究所専任教員による教育活動も行なわれています。

私たち人間は、時空間の中で生活しています。その意味では本来、時間と空間の双方について、研究することが必要です。しかしながら、これまでの科学では、時間論よりも空間論が好まれてきたように思われます。空間論の方に関心が向いてきた背景には、それが可視領域の科学であり、日常生活に不可欠な「場所」(私的所有権といった利害関係が関与する)を扱っていることが挙げられます。しかし、今日のような変化の激しい時代においては、生活を支える「時」の理解が不安定に揺れ動いているため、時間論もまた空間論に劣らず、その必要性を高めています。

これまで、時間に関する研究では、「時とは何か」「時間はいつ生まれたか」といった疑問に対する検討が、物理学や哲学、宗教学などによって行なわれてきました。実際、人類は長い間、時を知ることに英知を注ぎ、時間を定めることにより社会を支配し、安定化してきたと言えます。為政者や宗教者などは、時間を計測する科学を奨励し、学者を庇護し、その結果生まれた暦や時計を採用してきました。時計の研究や時計の開発そのものは、長いことその当時の先端科学を担ってきました。現在でも脳の研究において、体内時計や時間遺伝子などに注目が集まっています。このように時間研究は、先端の科学的営みと密接に結びついてきました。

他方、時間の研究は、自然科学をリードしてきた領域であるばかりでなく、別の側面をもつ事実も力説しておかなければなりません。それは、時間が動き(運動)とともに生起するということであり、それは人間の生活における行為や活動、さらには生命そのものに関わっているということです。人間は、生や死について解釈と説明を行ない、意味の世界(たとえば宗教)を広げてきました。時間という概念は、生命科学や地球科学、社会科学や人文科学など、すべての科学において無視できないものになっています。

時間学研究所の使命は、文系・理系の連携によって「時間学」という新しい学問を切り開き、時間を科学的合理性のみから解釈するのではなく、人間的な世界における時間を取り戻すことにあります。そのためには、持続可能な地球社会や人間社会を展望し、文明論を視野に入れた研究を行なうことも重要です。時間学研究所は、こうした地道な研究と、時代の要請する研究とを車の両輪として進み、研究成果を地域に還元していきたいと考えています。

山口の地は、近代社会の誘因に多大な影響を及ぼした機械時計が、我が国に最初に伝来した地です。不幸にして、大内氏に献上されたこの機械時計は、大内氏の滅亡と共に消失してしまいましたが、この地、山口で時間の研究を開始し、機械時計ではない「新たな時の計測」を創始するのも意義深いように思われます。いずれにせよ、時間に関する研究の中核的な「シンクタンク」を目指し、学内外を問わず、幅広い共同研究を進めていきたいと考えておりますので、快い研究支援を切にお願いする次第です。